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なにげに

日々のいろんなけっこうどうでもイイことを更新中。 オリジナル小説は「みたいな」という別ブログに移動。

アフリカの砂漠の名前<19>
 施納はヘッドフォンをしたまま、しばらく動かなかった。

 棚の隅に鳥のフィギュアが置いてある。麻美が玄関先に出していた不燃物の中にあったものだ。あれは弟が持ってきて、置いていったものかもしれないと思った。


* *


 カーテンの向こうが明るくなった。雀の声が聞こえる。

 町田瀬里は身体に毛布をまとい、パソコンの画面を見ていた。メール画面には受信の欄にランボーの名前ばかりが並んでいる。新しく受信するものは迷惑メールばかりだ。ランボーが死ぬ3日前に来た最後のメールをクリックする。そしてそのメールをじっと見つめた。


* *


「今日は早い?」
 麻美が玄関で聞いた。
「ああ、あ、いや、ちょっと遅くなるかも。仕事で」と、施納は顔を出口に向けたまま、マフラーを巻いている。本当は嘘だ。


『ここ、行ってみりゃわかる。おれがやつに紹介してやった。3万なんてしょぼいこと言わず、30万にしとけよって』

 このあいだ、そう言って近沢宏太が放ったマッチにあった名前、『エデン』という店に行ってみるつもりだっだ。いったい誰から金をもらい、何のために必要だったのか、知りたかったのだ。

「そう」
 麻美は何か言いたげだった。
「どうした?」
「今日は鍋にしようかなって思って。あれ、ひとりで食べるのもなんかね」
彼女はめずらしいことを言った。最近では互いに干渉しなかったが、彼女の本当の気持ちはそうではないのかもしれない。

「じゃあ、できるだけ早く帰ってくるよ」
 施納はそう言って、扉を開けた。扉が開くのを邪魔していた不燃物は、きれいになくなっていた。

「今日は不燃物?」と、隣を見ると、例の三輪車があった。相変わらず転がったままだ。
「うん、もう出したけど、まだ何か出したいもの、あった?」

「いや、隣もいいかげんに、あれ、使わないんなら、さっさと出せばいいのに」
 彼はそう言うが、麻美から返事がないので振り向くと、彼女はぽかんと呆気にとられた顔をしている。

「隣はいないんだけど」

 ぽかんとしたのは施納の方だ。
「いないって…」
そんなはずはなかった。確かに。

「子供がいたよ。ケンカしている声もしてたじゃないか」
 確かに、小さな男の子が三輪車の側に座っていて、通り過ぎる彼を見上げていた。

「やだ、ふざけないで。気味の悪いこと言わないでよ。このあいだ下の階の人に聞いたんだけど、となりに住んでた3人家族、3か月前に無理心中したって。そんなこと知ってたら、ここ来るの、考えるとこだったのに」

 彼は今、思いついてしまったことを、打ち消したい衝動にかられた。

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