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なにげに

日々のいろんなけっこうどうでもイイことを更新中。 オリジナル小説は「みたいな」という別ブログに移動。

アフリカの砂漠の名前<22>
 あの写真を彼に送りつけたのは、弟の光起本人だったのだ。施納は、真相の核心に近づいていると感じた。


   『あなたのおかげで、いろいろわかったことがあります。
   今度ぜひ一度お会いして、それをお話したいです。
   今度の日曜日にどうですか?

   ぜひ返信ください。

   返信待っています。お願いします。』


 瀬里が久しぶりにパソコンの電源を入れ、メールをチェックすると、施納からのメールが数通来ていた。あわてている様子だ。
 
光起からの最後のメールをクリックする。そこには父親の居場所がわかったから、今度会いにいこうと思っていると、住所まで書いていた。

 瀬里はキーボードを打ち始めた。

* *

 公園は強く寒風が吹気抜けている。ゴミ入れも転がり、ゴミくずが風に吹き飛ばされて行く。急ぎ足でやって来た施納は、あたりを見回した。

 若い女の子がひとり、寒そうにブランコに座っていた。彼女以外、誰もいない。施納は近づきながら、彼女がフランケンだとすぐにわかった。フランケンからのメールで、今日、この公園で会おうと言ってきたからだ。

「きみが、フランケン?」
 彼女は大きく頷いて、ブランコから立ち上がった。
「ランボーのお兄さん?」
彼女もまた、そう言うと、彼をじっと見た。

「別のところへ行こう」
 施納はあたりをきょろきょろと見回した。
「つけられてる」

「え?」
驚いた様子だった。
「最近、ずっとつけてくるやつがいる。伊勢崎雅人とかいう男なんだけどね、前に光起が、補導されたときの関係者らしい」
「なんでつけてくるの?」

「襲ってきたんだ」
そう言うと、彼は驚いたままの顔をした彼女の手を、強引に引っ張った。

 施納は彼女を連れて必死に走った。施納の会社が関係している、彼も部下の国沢と見に来たマンション建設現場まで来た。そこにも人はいない。重機も置かれたままになっている。彼らは鉄骨の影まで走って来た。 

「どうして、その伊勢崎って人が、施納さんを襲うの?」
荒い息を整えながら彼女が言った。

「そいつが犯人だと思わないの?」
施納が大きく息をした。

「そんなはずがない」と、彼女は首を振る。
「どうしてそう思うの?」
「だって、…あの、ランボーの最後のメールに、なんてあったと思う?」

彼は何も言わない。彼女が振り向こうとした。



 そのときだ。施納はいきなり、瀬里を殴りつけた。




 施納はまだコンクリートが流し込まれてない、側溝をさらに深く掘ったところに置かれた細長い木箱にクギを打ち付ける。中から声がした。

「やめて!出して!どうしてこんなことするの!」
 フランケンという女の叫ぶ声と、木箱を中から叩く音がする。

「どうしてランボーを殺さないといけなかったの!?」

 施納はクギを打つことを止めない。手袋、金槌、釘、すべて用意してきたのはこのためだ。塞がなくてはならなかった。

「ランボーが、光起くんが施納さんの子供だから!?」
施納の手が止まった。

「私、ランボーのお父さんに会いに行った。住所知ってたから。お父さんが、あなたとお母さんのこと教えてくれた」
 施納の身体が震えていた。すっかりおびえている。

       *             *

「ねえ、お父さんの居場所、知ってる?」
 最後に補導されたときの光起を、引き受けに行った帰り道のことだ。施納は突然のことで驚いた。光起がこれまで父親のことを言ったことはなかったからだ。それに離婚した16年前から会ったことはなかった。一度、母親の葬儀に来ていただけで、付き合いはまったくなかった。

「知らない。どうしたんだ、急に」
「お父さんの住所調べてるんだよ」

「なんで」
「なんでって、お父さんじゃない」
そう言うと、光起はにこっと笑った。

      *             *

 父親は疑っていた。もし父親に会いに行けば、父親は母と自分のこと、そして彼の出生の疑いを口にするだろう。だからそのとき、施納は決意したのだ。すべての秘密を葬り去ろうと。

「それにランボーは知ってた。実はおれには予知ができる、まだ起こってないことを見ることができる。子供の頃からそうなんだって。殺されることも知ってた。だから最後に、おれはいったい何者なのか聞いてやりたいって」
 細長い木箱の中から、彼女のこもった声が聞こえてくる。

 施納は金槌を握りなおした。
「知ってる」

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