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なにげに

日々のいろんなけっこうどうでもイイことを更新中。 オリジナル小説は「みたいな」という別ブログに移動。

アフリカの砂漠の名前<24>
 施納は警察に入ると、ネクタイを直しながら歩いた。ひっきりなしにいろんな人が行き交っている。中須加刑事が施納に気付いた。

「八木さん」
 八木が机で事務処理していたが、顔を上げた。中須加に案内されて、施納は八木の所にやってきた。ていねいなお辞儀をする。いつもの営業での習慣が、身に染み付いている。

「あ、どうもわざわざすいません」と、八木は机の書類を閉じた。彼の机はごちゃごちゃといろんなものが未整理のように置かれていた。

「こちらもお話したいことがあって」と施納も言う。八木にすすめられ、しきりのある応接のソファーに座った。

「あの歯の代わりにつめられていた骨、焼かれていた古いもので、なかなか大変でしたが、DNA鑑定の結果がでましてね。真城光起と近いもので、どうやら10年前亡くなられた、お母さんの真城奈津実さんの骨じゃなかろうかと」

 施納にはもう十分予想できていた答えだったが、それでも動揺せずにはいられなかった。

 母親の骨壺が仏壇に置かれていたとき、幼かった光起が、そこから骨をとったのだろうか。

「そうですか…」
 そう言いながら、施納は自分の額に汗が浮いているのを感じた。

「犯人がどうしてそういうことをしたのか、わからないんですがねえ」
 施納にもわからない。どうして骨をとったんだろう。どうしてその骨を、口にわざと入れたのだろうと思った。わざわざ、謎解きをさせるためだったのだろうか。

「おもしろ半分じゃないですか?」中須加が言った。
「…それにしても手がこんでる」
八木が首をかしげる。警察は相変わらず、犯人が傷を残したと思っている、それは施納を少し安心させた。ハンカチを出し、額に押し付ける。そのとき、自分のスーツパンツの裾に土がついているのに気付いた。

「ああ、施納さんもお話があると」と、八木が思い出して言った。
「あ、あの伊勢崎とかいう…」
施納はそう言いながら、片方の足でそっと裾についた土を落とす。

「ああ、行方不明の」
「見ました。いえ、というより、よく現れて。この間はエレベーターの中で、襲われそうに…」

「本当ですか!」中須加が身を乗り出した。「どうしてもっと早く言ってくれなかったんですか」と、メモに書き出した。
「ええ、もう何がなんだか…」施納の顔には不自然な笑みが浮かんだ。

    *        *

 どうやっても何やっても、板はびくともしなかった。
「お願い、出して。助けて、誰か」

 瀬里の声はもう途切れがちになっていた。真っ暗な中、息苦しさが充満する。恐怖で死んでしまいそうだった。必死で横たわったままの身体で、板を押そうともがくが、何をしても空しい努力だった。

「助けて!」
 絶望的に声を振り絞ったとき、音がした。誰かが土を掘っている。

「助けて!」
 瀬里は必死で叫んだ。音は続いている。少しずつ明るくなる。瀬里が自分の上にある板をどんどんと叩く音がしだいに響きだした。ゴンゴンと、スコップだろうか、固いものが板に当たった。

 そしてメキメキと音がしたと思うと、板がはがされた。土がいくらかばらばらと、彼女に落ちて来た。赤く傾いた日差しが彼女にも当たった。大きく息をした。何度も大きく呼吸をし続けた。心臓がバクバクと動いているのが、はっきりとわかった。

 逆さまに覗き込む人影が見えた。逆光になったその男は、手を差し出した。
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