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なにげに

日々のいろんなけっこうどうでもイイことを更新中。 オリジナル小説は「みたいな」という別ブログに移動。

アフリカの砂漠の名前<25>
 瀬里は目を凝らしたが、その男に見覚えはなかった。男は伊勢崎雅人だったが、彼女は会ったことがなかったからだ。

「だれ?」
 起こされたとき、彼女はたずねた。男は微笑んだ。

「ランボーだよ」

 瀬里は口を開けたままだ。

「きみが呼んでくれた」

そのとき、瀬里は驚きのあまり、口を両手で覆った。

 ランボーが亡くなったことを知ったとき、好きだったサイトで覚えた降霊術を、必死でやった。
 ろうそくで囲んだ中で、反転させて名前を書いた。戻れを4回、名前を1回、「伝えるべきことを伝えざるは、これ無念なり」と述べた。本当にランボーに、真城光起にもう一度会いたかったのだ。

 また会えた。瀬里の目から涙がポロポロこぼれた。彼は瀬里を抱き締める。


    『今から言っておくよ。おれはもうすぐ殺される。犯人は
    きっと、きみにおれのことをメールで聞いてくるだろう。
    いいよね?その人がおれのことを気にしてくれるんだ。
    どうしてそんなことをきみに言うのか、その理由は、もう
    一度おれと会ったとき、きみはもう知ってるだろう。

    携帯は忘れずに』


 何度読みかえしただろう。ランボーからの最後の謎めいたメール。

 だから、瀬里は施納からメールが来たとき混乱した。なぜ、兄が弟を殺すんだろう、殺せるんだろうか。そしてなぜ殺されることを、あえて選んだのだろうと思った。

「どうしてあんなメールを、送ってきたんだろうって思ってた。最初は信じられなかった。すごく気になってたけど、自分が閉じこもったままで、何もできないのがもどかしかった。でも、ランボーのために真実を突き止めようって決めた。でも、それは私のためだったんだね。私を外に出してくれた。うん、今は知ってる」

 突然、伊勢崎が抱きついている瀬里を押し戻した。呆然としている。「誰?」と、彼女を見て、辺りを見回す。親しげにやさしく微笑んでくれた、先ほどの彼とは別人だった。

 ランボーは去って行ったんだー。彼女はそう思い、空を見上げた。空からは雪がふわりと舞いおりてきた。手をそっとかざす。瀬里には、まるでランボーが別れを告げてるように思えた。

* *

「それでは、その点はこちらも捜査していきますので」
 中須加がお辞儀をした。
「よろしくお願いします」ほころびはないはずだ。塞いだんだ。ようやく落ち着きを取り戻した施納も頭を下げ、出て行こうとした。

「あの、施納さん」
 八木の声に、施納はどきりとした。足を止め、緊張して振り向くと、八木は微笑んでいた。窓の方を指さして、「外、雪が降ってますよ」と言った。

* *

 麻美もまたその頃、窓の外、雪が降っているのに気付いた。が、また掃除機をかけはじめる。施納の部屋だ。いつもは彼が自分で掃除をするのだが、彼女はたまにはしてあげようと思い立ったのだ。

 彼はきれい好きで、たいして汚れても、乱れてもいない。掃除機を大きく動かしてかけていて、カタリと音がした。鳥のフィギュアが本棚の下に転がっている。

 彼女は拾って、しばらく眺めた。

 そしてすぐにゴミ入れに放り込むと、再び掃除機をかけ始めた。ていねいに、少しのゴミも見逃さないように、作業を進めて行った。

* *

 雪が舞い降りてくる。

「あった」と、伊勢崎が林の中で、瀬里の鞄を上にあげた。瀬里は伊勢崎に近寄って行く。

 彼には事情を説明したが、よくわからない様子だった。ここ数日間の記憶が全くなかった。ただ、いまの彼女の大変だった状況を知り、手伝ったのだ。

「ありがとう」
 鞄をあけると携帯がある。彼女は携帯を手にとった。

* *

「伊勢崎、失踪したっていう時点であやしいと思ってたんですよ。やっぱり」中須加は腕組みをする八木を見る。
「八木さん、どうしたんですか」

「いや、…どうもな」と、八木は納得できない様子だった。
「何がですー?」と聞く中須加の向こうで、同僚が「八木さん、電話!」と手を上げた。

「お待たせしました」八木は急いで電話にでた。
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