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なにげに

日々のいろんなけっこうどうでもイイことを更新中。 オリジナル小説は「みたいな」という別ブログに移動。

アフリカの砂漠の名前 <3>
 施納は疲れたような表情をしている。
「何の、骨ですか?」
「まだ調べてます。鑑定結果がでれば、人骨なのか犬とか動物の骨なのかすぐわかります」
「人骨…」
「そうなると、行方不明者をあたらなければいけない可能性がでてきますね」
「いったい誰がそんなこと」
「異常ですよね。ひどいことを」
中須加はコーヒーに口をつけた。


 八木はいくぶん白いものが混じった頭をかいていた。
「長いことこういう仕事をしていますとね、まあ、ほんと、いろいろとありますよ。とんでもないような、信じられないような、本当にいろいろあります。人間はやっかいなもんです。欲なしでは生きられないが、欲だけでも生きられない。平気で嘘もつけると思えば、かといって真実を言えるわけでもない。本当にやっかいなもんです。まあ、だから私らの仕事にも目利きがいるわけで」そう言うと、にっとした。中須加も大きく頷いた。


「でもここ最近かねえ、こういうような劇場趣味的なものは」
八木がつぶやく。
「劇場趣味…」
中須加が八木の言葉を繰り返した。何度か頷いている。わかっているというよりは、自分を納得させているかのようだ。
「隠すんじゃなく、観客が必要だということですか。自分の存在を言いたくてたまらない、スポットライトを浴びたい、注目されればされるほどうれしいという…あ、もちろん被害者のご遺族の方々にはお気の毒なことですが」
八木が続けた。施納は口を固くむすんでいる。


「この事件の最も重要な鍵は自分だと、アピールしているようだとは思いませんか」
 八木刑事はさらにもう一枚の写真を出した。その奥歯のようなものを取り出してアップで撮影したものだ。
「ここ、よく見てください」
写真を指す。そこには削られたような痕があった。それは『?』のクエスチョンマークに見えた。
「疑問。まさしく問いかけですよ。我々、観客への」
八木は強い口調でそう言った。


*         *


 雨の音がしている。施納は八木の言葉を思い出しながら、リビングのソファーの側で立ったまま、その送られてきた写真をじっと見つめた。歯に『?』と確かに刻まれている。自分の心臓の鼓動が、早く強くなったのがわかった。


 急いで中身を全部出す。写真は全部で7枚。警察で見たものと同じマークがついていたが、写し方はアップの度合いもバラバラで、また、斜めになっていたり、警察のそれとは違ったものだった。この写真を送ってきたものがこの傷をつけた可能性が高い。
 封筒の中をまたのぞくが、写真以外、何もなかった。宛名の字も見るが、見覚えのない字だ。施納はしばらく封筒や写真を何度も何度も見返していたが、やがて受話器を取ると、警察の番号を押しかけた。
 そのとき、あまりにタイミング良くチャイムが鳴ったので、彼は驚きのあまり反射的に受話器を置いた。


 彼は不安そうに玄関へ向かった。小さな丸いレンズから外をのぞこうと顔を近づけた。誰かの目のアップがそこにはあった。
「あっ」
 身体ごと飛び離れた。誰かが外からのぞいている。それだけのことで動悸がますます高まる。さっき見た写真のせいだった。
「どなたですか?」
いつもより声が大きいのが、自分でわかった。
 問いかけるが反応がない。ドアの鍵を開けようとして、すでに開いていることに気付いた。彼はますます動揺した。閉めなかったのだろうかと、さきほどの記憶をたどる。
 夜、仕事から帰ると麻美がドアを開けてくれ、入ると彼が鍵を閉めるのがいつもの習慣だった。だが、いつもやっていることなので、今日も本当に閉めたかどうかははっきりしない。無意識だった。


 そっとドアを開ける。ドアの前だけでなく、マンションの廊下にも人の姿はなかった。
 彼は自分は鍵をし忘れてたし、来た人もきっと留守だと思ってさっさと帰ったんだろうと思いなおした。ドアを閉め、今度は意識して鍵をかけると、居間の方を振り返った。そのとき、玄関横の棚の上に鍵があるのを見つけた。それを手にとる。家、会社のロッカー、会社の机の引き出しの3つの鍵をキーホルダーにつけた自分のものだ。居間のテーブルに置いたはずだった。


 そのとき、ドアに鍵が入る音がして、飛び上がるように驚き振り向くと、ドアを勢い良く開ける妻の麻美がいた。驚いたのは彼女の方だった。
「ああ、びっくりした。どうしたの?」
白い息をはく。大きなスーパーの買物袋を持っている。
「ああ、寒い寒い。雨だからそんなに寒くないと思ってたのに。このままだと雪にならないかな」
 彼女はそのまま台所へ向った。そのあと、施納は確かめるように、ドアに鍵をかけた。


「で、どうだった?」
 麻美の声が、物音に混じって聞こえた。彼には一瞬何のことかわからなかった。先ほどの混乱がまだおさまってない。居間に戻り、机に放ったままの封筒から出した写真が目に入り、やっと意味を理解した。麻美には事件の進展具合の説明があるから、休みをとって警察に行ってくると言ってあった。
「別に、進展はないって」
 彼は写真を集めると、急いで自分の鞄に放り込んだ。
「そうなんだ、残念ね」というと、明るい声に変わった。「ね、今日はお肉が安かったんだ。焼肉でいいよね」
「うん」


 事件後も、彼女は弟のことをあまり話さない。だから彼もあまり言わないようにしていた。
 麻美はつきあっていた高校時代には幼かった弟にも会ったことはあったが、施納が大学生になってからは一緒に住むこともなかったせいもあり、大きくなってからの弟には会ったこともなかった。だから、遠い親戚のような割り切り方をしても仕方がないのかもしれない。


「ここってほんと、便利。すぐ近くにスーパーがあるし」
 麻美がスーパーの袋から買ってきたものを取り出している音がした。
「ここのスライド棚、ほんと使い勝手いい。前のとこと大違い」


 彼は換気のために窓を開けていたのを思い出し、閉めに行く。雨はますますひどく降っている。閉めるとき、窓際に滴が垂れ、つうっと生き物のように床に流れるのを、施納は気味悪そうに見ると、足先でこすった。

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コメント

1. よろしく!

どんどん毎日アップしていく予定です。よろしくお願いします。また、別のところでお絵描きもしてますが、それもぼちぼち、こちらでアップしていくつもりです。

2. 絵日記も

ときどきアップしていくぞっ

3. (^o^)/

読んでいただいて、ありがとうございます。予想外にご訪問&読んで(クリックも)いただいてるようで、とてもうれしく思っています!どこがホラー?と思われるかもしれませんが、完結すればお感じいただけると思います。どうぞラストまで読んでください。毎日更新につとめますので、よろしくお願いします。

4. もうすぐ(@▽@)

ラストまでもうすぐです。どうぞよろしく!

5. 投票開始だ〜

アルファポリスで、webコンテンツのホラー小説大賞が4/1から末日までやってます。それにエントリーしてしまいました。まあ・・・他の方々のを見ると力作で、自分のがあまりにもホラってなさすぎる気もしてますが、自分ではホラーとして書いたつもりです。まだラストまでもう少しで、完結して全体として完成したものを見せてないうちに言うのもなんですケド、よろしかったら投票お願いします。大それたことは当然望んでいませんが、みなさまのクリックが、今後の創作のはげみになります!ありがとう!

6. 完結しました

いかがだったでしょうか?これからもぼちぼちアップします。webお絵描きや、短編の一応ジャンル的にはホラーになるのかなあ?ってのも、他のジャンルのものもいろいろまた掲載したいと思ってます。どうぞよろしくお願いしまする。
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