「あ、お父さん?今日は早く帰れそう?」
裕美が携帯をかけている。
「…マサヤとトオルのこと、朝、約束してたじゃない」
向かいの花屋から、白い百合の花束を持った麻依が出て来た。
「お金もかかることだから…もしもし?」
裕美は口をとがらせて、携帯を切った。
「あーあー、私がこんなに悩んでるのに、みんな本当に勝手なんだから」
「どうかしました?」と、麻依が聞く。
「ダンナは仕事がいつも口実で家のことに関わらないし、上の子は安い寮
を出てマンションに入りたいっていいだすし、下は進路面談で1年ぐらい
海外に旅行したいっていうし…で、私は今日も晩ご飯に悩み、リンゴ1個
70円のタイムサービス、3パックで1000円の肉、4割引の冷凍食品を追
い掛けると」
裕美は麻依に買物袋を見せて笑った。さきほど帰り道のスーパーに立寄り
買ったものだ。
「行こう、麻依さん。つきあったげる」
* *
カラスが鳴いて飛んでいる。
麻依と裕美はしかめつらで見上げた。
割れた窓、うす暗い内部、庭には雑草が茂る。そこには、おんぼろの6階
建てのビルがあった。
「…ここ、帰り道っていっても、いつもはもうひとつ向こうを通って…」
「あっ!!」
麻依が声を上げた。裕美も麻依の方を見た。向こうから若い男が歩いてくる。
「あいつ…」麻依は顔見知りのようだった。「隠れなくちゃ!」
麻依は急に裕美の腕を引っ張っていく。
「あの!」
麻依は裕美を連れて、あわててそのおんぼろビルの入り口を開けた。
裕美が携帯をかけている。
「…マサヤとトオルのこと、朝、約束してたじゃない」
向かいの花屋から、白い百合の花束を持った麻依が出て来た。
「お金もかかることだから…もしもし?」
裕美は口をとがらせて、携帯を切った。
「あーあー、私がこんなに悩んでるのに、みんな本当に勝手なんだから」
「どうかしました?」と、麻依が聞く。
「ダンナは仕事がいつも口実で家のことに関わらないし、上の子は安い寮
を出てマンションに入りたいっていいだすし、下は進路面談で1年ぐらい
海外に旅行したいっていうし…で、私は今日も晩ご飯に悩み、リンゴ1個
70円のタイムサービス、3パックで1000円の肉、4割引の冷凍食品を追
い掛けると」
裕美は麻依に買物袋を見せて笑った。さきほど帰り道のスーパーに立寄り
買ったものだ。
「行こう、麻依さん。つきあったげる」
* *
カラスが鳴いて飛んでいる。
麻依と裕美はしかめつらで見上げた。
割れた窓、うす暗い内部、庭には雑草が茂る。そこには、おんぼろの6階
建てのビルがあった。
「…ここ、帰り道っていっても、いつもはもうひとつ向こうを通って…」
「あっ!!」
麻依が声を上げた。裕美も麻依の方を見た。向こうから若い男が歩いてくる。
「あいつ…」麻依は顔見知りのようだった。「隠れなくちゃ!」
麻依は急に裕美の腕を引っ張っていく。
「あの!」
麻依は裕美を連れて、あわててそのおんぼろビルの入り口を開けた。
PR
コメント