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なにげに

日々のいろんなけっこうどうでもイイことを更新中。 オリジナル小説は「みたいな」という別ブログに移動。

コール<3>
「あ、お父さん?今日は早く帰れそう?」
 裕美が携帯をかけている。
「…マサヤとトオルのこと、朝、約束してたじゃない」

向かいの花屋から、白い百合の花束を持った麻依が出て来た。

「お金もかかることだから…もしもし?」
裕美は口をとがらせて、携帯を切った。
「あーあー、私がこんなに悩んでるのに、みんな本当に勝手なんだから」

「どうかしました?」と、麻依が聞く。

「ダンナは仕事がいつも口実で家のことに関わらないし、上の子は安い寮
を出てマンションに入りたいっていいだすし、下は進路面談で1年ぐらい
海外に旅行したいっていうし…で、私は今日も晩ご飯に悩み、リンゴ1個
70円のタイムサービス、3パックで1000円の肉、4割引の冷凍食品を追
い掛けると」

裕美は麻依に買物袋を見せて笑った。さきほど帰り道のスーパーに立寄り
買ったものだ。

「行こう、麻依さん。つきあったげる」

         *              *

 カラスが鳴いて飛んでいる。

麻依と裕美はしかめつらで見上げた。

割れた窓、うす暗い内部、庭には雑草が茂る。そこには、おんぼろの6階
建てのビルがあった。

「…ここ、帰り道っていっても、いつもはもうひとつ向こうを通って…」
「あっ!!」
麻依が声を上げた。裕美も麻依の方を見た。向こうから若い男が歩いてくる。

「あいつ…」麻依は顔見知りのようだった。「隠れなくちゃ!」
麻依は急に裕美の腕を引っ張っていく。

「あの!」

麻依は裕美を連れて、あわててそのおんぼろビルの入り口を開けた。


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