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なにげに

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コール<6>
「もしかして、あなたも?」
麻依が千夏に言った。
「知るワケ。私はただ、隠れてただけ・・・」千夏が急に泣き出した。
「大丈夫?」裕美が近寄る。
「ダンナがさ、私を殴った・・。ちくしょう、もう絶対別れてやる」
千夏が涙を手の甲でぬぐった。

「ダンナってあのヤンキー?」
 その声に、麻依たちそこにいた全員が振り向いた。

壁にもたれて立っている男がいる。
「だれ・・・」麻依はわからなかった。
「メール、あったって言えよ」と、その男が千夏に言った。

「なんでここに!・・・」千夏が驚いた。顔見知りのようだった。
「声がするからのぞいてみたら。メールきたの、おれだけじゃなかったんだ。あーよかった」
みんなが千夏を見た。
「なんで今頃ねえ・・・。しかもほとんど私、関係ないし」
千夏は口をとがらせた。

「誰ですか?」麻依がその男に聞いた。
「いや、どうも、おれは朝斗のバイク仲間だったっていうか」
「森沢俊樹だよ」と千夏が紹介した。
「バイクショップの知り合いつながりってわけ。で、こっちはそこに来てたヤンキーにくっついてた女」
森沢という男は、千夏を指すとけらけら笑った。
「なにそれ」千夏はむっとする。

「つまり、みんな刈谷朝斗の知り合いってことか」館山が言った。
「あ、おれは朝斗とは仲よかったから。こっちと違って」と、森沢は千夏をまた指した。
「なにそれ!」
「おれだって悪かなかったよ」と館山。
「でも、なんで?だったらなんで、みんなメールのこと隠そうとしたの?」
麻依がそう言ったとき、裕美が口を開いた。
「あなたたちがみんな、刈谷朝斗って人のことで呼び出されたなら、なぜか、その理由があるはずよね?」

「理由か、何だろうな。けど、おれはメールのこと別に隠してないよ。まあ、営業さぼる時間つぶしに来てみただけなんだけど」
森沢が呑気そうに言った。
「これ見たでしょ」麻依が床に円形に置かれたものを指す。
「ふーん」やはり森沢は呑気そうだ。
「あの、今何時?」裕美が隣りにいた館山に聞いた。
「4時すぎ」
「まあ、私そろそろ・・・」
「呼び出された私たちの共通点は何?」麻依が緊張した声で言う。「同じクラスだったってのでもないし・・それとも、知らず知らず、彼が死んだことに何か関係があるとでも?」
「誰がが刈谷朝斗を殺したとでもいうつもり?」千夏が口をとがらせた。
「殺したなんて言ってないでしょ」

「メールを送ったのが、もしかしてこの中の誰かだったりして」
館山が麻依を見た。
「まだ言ってる」麻依がむっとした。あきらかに館山はやはり麻依を疑っている。

「あの・・」と、裕美が口を開き、みんなが一斉に彼女を見た。
「あの、電話の声は男の人でしたよ」
「ほらぁ。ほらほらぁ」
千夏がにやにやして館山と森沢を指した。
「あ、いえいえ、声が違うの」
「ほんとぉ?」
「間違いないわ。電話の声って聞きなれてるからわかる」裕美が言った。「麻依さん、やっぱりさっきの・・・」
「メタルザキ?まさか」
「メタル・・ザキ、もしかして柏崎のことか?」
「すごいネーミング」森沢が麻依と館山の会話に笑った。

「そう、柏崎。さっきこのビルの前にいた」
「あーさっきの!」千夏はやっと思い当たったようだった。

「なんであいつがメールするんだ?」
「そう、ありそうにない。まるで接点がなかったから」
館山と麻依はかつて柏崎と同じクラスだったことから、イメージが同じだった。

「んー、でもよ、実は知り合いでしたとかってことはありえない?」
「あり得ない」
森沢の気楽な言葉に麻依がすぐ反応した。

「ここの誰かがグルってことも?」館山が思いついたように言った。
「なにそれ!」
「いや、可能性の話だよ」
千夏の言い方に館山が少しいい訳した。

「ていうか、誰この人」
思い出したかのように森沢が裕美を指した。
「あ、私のバイト先の…」
麻依が紹介しようとした。
「どうも。町田裕美です。ああ、そうだ。もう私はいいわね」
裕美は苦笑した。いつのまにかここに参加しているようだ。

「まあまあ、そう言わずにつきあってよ」
森沢がにこにこした。
「バイトって、保険会社じゃなかった?」
館山が麻依に聞いた。
「なんで知ってるの」
「前に同窓会したとき、誰かから聞いた」

「そうそう、チーフだったそうよ。有名な会社なのにもったいない」
裕美が口をはさんだ。
「難しい人間関係と職場の軋轢のために肉体的にも精神的にも疲れて辞めました」
麻依が嫌味たっぷりに言うと、館山はぽかんとしていた。
「どうしてどうしてどうして、もう聞かれ飽きたから」

「あの、じゃあ、私もう晩ゴハンの支度あるから・・麻依さんも、昔の友だちを思う気持ちはよくわかるけど、もう帰った方がいいわ。なんだか怖いじゃない。ね、帰りましょうよ」
裕美が麻依の手を引いた。
「いえ、やっぱり私、知りたいんです」



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